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狼牙志士隊の日誌

イズレーン皇国所属・狼牙志士隊の日誌

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狼厳の過去-2

ちょっとだけ閲覧注意!

直接的な描写はないですが、それを匂わせる表現が
チラッとだけありますー(゚д゚)






大会は、想像以上だった。

想像以上に…呆気のないものだった。


【狼厳の過去-2】


当初6時間を予定していた大会は、
僅か2時間で幕を下ろした。

決勝戦に勝ち進んだのは狼厳と、狼厳と同じ、武家の長男坊。
昔の狼厳ならば、到底敵わなかった相手である。

が…その振るう木刀が、踏み込む足が、躱す動作が。
それら全てが、とても遅い。
初めは手加減されているのかと思ったが、相手が
顔を赤くして攻撃してきていた事から、本気なのだと察した。

上段から振り下ろされた一撃を木刀で受け止め、ぐんっと
力を込めて相手を突き飛ばす。
軽々と吹き飛び、尻餅をついた相手の喉元に木刀の切っ先を
突きつけたところで、審判が狼厳の優勝を声高に宣言した。

狼厳は思っていた以上に自分が強くなっていたことが、純粋に嬉しかった。
そして、賞品を受け取り、家に戻ると父や母は大層喜び、
その日は屋敷を挙げての宴となった。





しかし、それからが狼厳にとって、大変だった。
その武勇を広く知られた事により、次から次へと
国内の商家の者達に縁談を持ちかけられていたのだ。

狼厳自身にはそのようなつもりはなかったが、
その武勇であれば国内で将の座を射止めるのも夢ではない。
そう判断した者達が、我先にと、娘や孫娘、時には行かず後家となっている
女性を紹介しに、屋敷を訪れたのだ。

父や母は、『相手はお前が決める事だ』と言ってくれたが…
狼厳には責任感があった。

両親も、もう高齢だ。これから新しい子など望めない。
唯一の子である自分が世継ぎを為さねば、家名が途絶えてしまう。

そう考え、幾人か側室に迎え入れた。

夜は、跡継ぎを為すために閨を共にし、事も為したものだが、
あくまで狼厳は、『義務感』により、『仕事』として、彼女らと接していた。

彼女らが気をやり、時に気を失う事はあっても、
狼厳は一度たりとも、それを感じる事はなかった。
また、同年代の男友達が言う、そういった行為によって得られる
快楽なども、狼厳には一切なかった。

(子を成し、家名を保つは、武家に産まれた男児の務め。
 快楽などを得られるものでもあるまいに)

そういった考えが、狼厳の根底にはあったのだ。
当然…子宝になど恵まれず、狼厳のそうした思想は、
より強まっていった。

そうした思いを、側室達も見抜いたのだろう。
一年半ほどで、彼女らは狼厳に暇乞いをした。
彼女らに何ら執着もなかった狼厳は、ただ一言、「そうか」と言って、彼女らを見送った。


もしかすると、顔も…下手をすれば、名前すら覚えていなかったかも知れない。
それくらいに、その頃の狼厳は焦っていた。

子を成せぬ自分。家名を保てぬ自分。
それらが腹立たしいものの、昔のように鍛錬すれば済む、という話でもない。

家名を自分の代で絶つわけには行かない。
しかし、側室はもういなくなってしまったし、何より
今の自分に、子が成せるか自信もない。

どうしたものかと思案に暮れる狼厳の部屋に…
顔を真っ赤にした、父が駆け込んできた。

そして。

『この、大うつけが!』

と怒鳴りつけ、狼厳の頬を思いきり殴り飛ばした。

既に老いて、髪も白くなってしまった男の一撃だったが、
狼厳が産まれて初めて味わったその拳は、今までのどんな攻撃よりも重かった。
痛みはない。しかし、重かったのだ。

何故殴られたのか分からず、呆然とする狼厳。
その狼厳の目を真っ直ぐに見据えながら、父は口を開いた。

『良いか、狼厳。家名の事など、気にしなくて良いのだ。
 お前は家名のために生まれたのではない。お前は、狼厳という
 1人の男として生きるため、この世に生を受けたのだ。
 家名を気にしてくれるお前の心、嬉しくないわけではない。
 が、家名を気にするあまり…お前は、大事なものを見失っておる』

初めて、父から受ける説教。
狼厳はいつの間にか正座をし、それに聞き入っていた。
そうさせるだけの威厳が、この父にはあった。

『…人の心。それを見失ってはならぬ。
 お前が側室に迎えた者達は皆、お前に好かれようと努めておった。
 お前から愛されようと、努めておったのだ。
 …その気持ちに、お前はどう応えた?』

そこまで言われて、狼厳は思い返した。

彼女らが作ってくれた料理に、一度でも美味い、と言っただろうか。
彼女らが向けてくれた微笑に、一度でも笑い返しただろうか。
彼女らが漏らした寂しさを、一度でも埋めてやろうとしただろうか。

…血の気が引く思いだった。
どれだけ自分が冷酷な事をしていたのか、その時になってようやく、
狼厳は悟った。

「…私が愚かでした…父上」

『…分かれば、良い。幸いな事に、離縁した者達は皆、別に
 お前を恨んではいない、と言ってくれた。
 …彼女らの辛さを忘れず、もう二度と、人の心を忘れぬと誓え。
 それだけが、お前に出来る唯一の償いだ』

「…はい、父上」

ふと、狼厳は父の袴を見て、気付いた。
元々年季の入った袴ではあったが、その袴に真新しい泥がついている。
年老いた体で、側室だった者達に、侘びに行ってくれていたのだ。

狼厳はその父の姿に、改めて自身の行いの罪を知った。

決して人の心を忘れず、常に人を思いやり、人の心と笑顔を、
そして生命をも守れる…そんな侍になろう。

そう、誓いを新たにした。
まずは自らの足で、側室だった皆に謝罪の言葉を伝え、
そこからまた新しく一歩を踏み出そう。

そう決意したのが、狼厳が18歳の頃であった。

それから狼厳は側室だった者に謝罪して回ってから、
家名にこだわるのを止めてひたすらに武の道を究めんと鍛錬を重ねた。
やがて、その武を見初められ、初めて『仕えよう』と思えた人…友に
出会うまでの2年、狼厳はひたすら、心身共鍛え続けた。





「…そして、その仕えた人と国を建て直している際に、
 世界の変容が起きて、この世界に来て…現在に至る」

俺の過去について語り終えると、俺は出されたお茶を飲む。
随分喋ったからか、お茶もすっかり温くなってしまった。

『…そう、なんだ…』

過去の事を聞いてきた張本人、レオルは少し驚いた様子で、
俺を見ている。

「ん、どうした?」

「…いや、なんでもない」

何か言いたそうな様子だったが、小さく首を左右に振る。
俺もそれ以上は追及せず、お茶のおかわりを頂こうと台所に向かった。



『…案外経験豊富なのに、何であんなに鈍いんだろうね…』

『あれはあいつの素なんだろ。持って生まれた素質ってやつか?』

『…女の人泣かせな素質だよね…』

『まったくだ』

こんなやり取りが、部屋に残ったシュヴァリエ殿とレオルの間で
なされていた事は、俺の知らない話。
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Comment

 

虚け者がー!( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
本当に、鈍感だから、困る

しかし異世界に飛ばされたとなるとご両親の心配もあるのだろうな
実際同じ時間軸かも謎なんだが

まさか狼厳さんが(削除されました)とは…!
  • posted by 皇帝 
  • URL 
  • 2013.02/19 23:55分 
  • [Edit]
  • [Res]

 

皇帝殿>
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) <グハッ!
この拳は…父上…!?(何

…書き忘れていた…だと…!?(´・ω・`)
両親は元の世界にいた頃に天寿を全うしたのです…!
なので元の世界にいた頃は屋敷に近所の方々と一緒に
暮らしていた感じなのです(´ω`*)

そうなのです、実は狼厳は(削除されました)だったのです…!
  • posted by 侍 
  • URL 
  • 2013.02/20 00:58分 
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  • [Res]

 

この鈍感がー!!( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン (顔文字コピペ)

ぬう……狼厳さん自身もなかなかずっしりした過去をお持ちで。
そしてレオルがびっくりした理由はやはり【削除されました】なところにあるんでしょうk

ご両親亡くされてるのね(´;ω;`)ジワッ
  • posted by X 
  • URL 
  • 2013.02/20 01:22分 
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X殿>
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) <グハッ!
この一撃は…父(ry

一時の若気の至り的なものですよ…!
セルヴィスに比べると軽いものです…(´;ω;`)

しっかり天寿を全うし、その際も立ち会えたので割と
狼厳はスッキリしているのですが!
狼厳の父はコスト的には500くらいの剣豪でした(´・ω・)(何
  • posted by 侍 
  • URL 
  • 2013.02/20 01:39分 
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心じゃよッ( ・д・⊂彡☆))Д´) パーン
・・・言ってみたかっただけです、こんばんはっ

まずは、
ろーがんさん、こーの女泣かせー、ひゅーひゅー(何
一体何人かこっtはべr・・・目掛けられてたのかしら。
幼い頃の小さい狼厳さんも見てみたいわねー(´ー`)

んで、・・・結局お子さんは出来なかったの?(・ω・)(おばちゃんモード入りました

  • posted by ソーフィヤ・A・D 
  • URL 
  • 2013.02/21 02:00分 
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ソーフィヤ・A・D殿>
( ‘д‘⊂彡☆))Д´) <グハッ!(三度目

さて、何人でしょうな…!
5-6人くらいでしょうか…(`・ω・´)
小さい頃は本当にチビでした。そして線が細く、
女の子のようで…っ(´ω`)

結局世継ぎには恵まれず、狼厳は現在も
子持ちではないのでご安心(?)を!(゚д゚)
  • posted by 侍 
  • URL 
  • 2013.02/21 06:56分 
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